←前の話に戻る  /  小説のページに戻る  /  次の話に進む→


第一二話 『風vs猫』

「くそ、速いな……」
 高速で向かって来る何かを京助は鎌で弾いた。
 既に何度も攻撃を受けたが、一方に相手の位置がわからない。
 先程から思考を巡らしているが、なかなか良い方法が浮かばない。
 相手が生きているのであれば気配を察知する事が出来る。しかし、既に生命活動を停止している物
の気配を感じる事は出来ない。さらに、攻撃方向から居場所を察知しようとしても、攻撃と同時に移
動しているようで見つからない。
 唯一の救いは攻撃が単調で、威力が低い事だろう。
(多少のダメージは覚悟しないといけないか……)
 ふっと息を吐くと、体の緊張を解き、目を瞑った。“戦闘”の意識を全て“感じる”意識に回した
のだ。当然防御は弱くなるが、このままでいても時間を無駄に使うだけ、京助はそう考えた。正確に
言えば、考えたというよりそれしか思いつかなかった。
 世界は闇に包まれ、光を失った。木々のざわめきが場を包み込み、風の流れを肌で感じる。
 不思議と京助の心は清流のように澄んでいた。
 しばらく静寂が続いたが、風が辺りを突き抜けたその時、京助は攻撃の予兆を感じ取った。
「――!」
 意識的にではなく、反射に近い速さで周囲の風を支配し、放った。
 今度は――手応えがあった。
 風は何かにぶつかると、その何かを弾き飛ばした。飛ばされたそれに向かってさらに追撃を入れた
が、ぶつかる寸前で掻き消される。
 その瞬間、石のような何かが京助に向かって飛んできた。感じるため防御を捨てていたが、ぎりぎ
りの所で防御でき、頬を切る程度で済んだ。
 出てきた何かは空中で姿勢を整えると、軽快な音を立てて着地した。
 その生物を見た京助の表情が一瞬固まる。
「猫……か?」
 そう、まさにそれは猫だった。大きさからしても通常の猫と変わらず、体付き、耳の形、瞳の大き
さ、俊敏な動きなど、京助の知る猫そのものだった。
 しかし、その瞳には輝きというものが欠けていた。光沢が全く無く、妙に黒ずんだ色をしていた。
それに額には白い傷がある。正確には傷というより、何かで書かれたといった感じの物だ。
 敵の正体に一瞬気が逸れてしまったが、慌てて視線を向け、体を緊張させる。
 猫は警戒するような視線で睨みつけていたが、すぐに飛び掛った。
 京助は鎌で爪を受け止めると弾き、空中で姿勢を正している猫に向かって風を放った。しかし、猫
は爪で風を切り裂き、掻き消した。
 その様子を横目で確認しつつ、京助は跳ぶ。
 猫は地面に爪を突き刺すと、コンクリートの破片を飛ばした。
 さっきの正体はこれか、と思いつつ鎌で破片を弾く。しかし、既に猫も距離を詰めていた。京助は
後ろへ跳びつつ、鎌を薙ぎ払う。
 猫は攻撃を避けると、一旦距離を開けた。
「……ってぇ」
 痛みに顔を歪めつつ、京助は右腕を抑えた。抑えた所からつぅと一筋の血が流れ落ちた。
 後ろへ跳んだが、やはり攻撃を喰らってしまっていたのだ。軽く接触した程度なのだが、すっぱり
と真剣で斬られたように切れていた。恐るべき切れ味である。まともに喰らったら切断されかねない。
 一瞬の油断が死に繋がる、そんな危機的な状況にも関わらず、京助の表情は変わらない。いつもと
同じ、どこか退屈そうな顔をしている。
 京助自身不思議だった。恐怖も怯えも感じているのに何故か自分の事だとは思えないのだ。他人の
危機を眺めているような、ぼんやりとした感覚しかない。
 そのおかげか頭はいつも通り動き、一つの疑問点に気が付いた。
(過進化体ってのは、確か進化し過ぎた生命体だった。そのせいで体長が一般的な生物より数倍もで
かいし、レベル1の状態では攻撃も単調だ。だったら……何故だ……?)
 前方で構えている猫を少し見て考える。
(……やっぱ能力か)
 鎌を握る手に力が篭る。
 死体を動かす術は二つある。
 一つは進化させる事。身体を異常なほど進化させ、肉体を根本から改造する事によって生命を動か
す方法。これによって出来た物体を京助達は過進化体と呼んでいる。
 もう一つは、能力。特別な力で働きかける事によって肉体を操作する方法。まだ京助は実際に見た
ことは無いが、能力は個人によって多種多様でそんな能力があってもおかしくは無い。
(しっかし……厄介だな)
 京助は舌打ちした。
 過進化体ならばただ攻撃するだけで済むが、能力だとすれば操ってる者を倒さなければならない。
それも、敵と戦いながら、だ。
 京助はため息を付くと、頭を振った。
「面倒な事になってきたな……」
←前の話に戻る  /  小説のページに戻る  /  次の話に進む→
◆メインページに戻る◆
++あとがき++ やっと十二話完成。かなり時間が掛かってしまった。 作ろうと思うときには作れなくて、作れるときは作る気が起きない。 そんな悪循環が続いてたからだろうな。 面白いゲームとかサイトとかのせいもあるな。 アイディアは出てるからこういうのはスランプって言わないのかな? ……まぁ、とりあえずこれ以上ペースが遅くならないように祈ろう。 余談だけど、京助は宝玉に力を込めて鎌に具現化させて戦う。 他の能力者も同じで、宝玉を使って武器を具現化させ戦う。 武器の形は持ち主によって変わり、鎌からナイフ、銃とかもある。 それを使う理由は、レベル2以上の過進化体には通常の武器が効かないから。 レベル1の頃は通常の武器でも僅かにダメージを与えられたが、 レベル2以上は形質が根本的に違うので全く喰らわないし、死ぬと体が消滅する。 中には使わない人もいるが、武器としての性能も良いのでほとんどの能力者はそれを使って戦う。 武器は本部へ行って能力者として登録すると手に入れる事が出来る。 京助とか響子は既に持っているので、本部へ行くストーリーは書けそうに無いけど、 一度本部へ行かせたいので新たな能力者を京助の身近で作る予定。 ――思ったけど、余談と行ってたけど通常のあとがきより長い……まあいいか。