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第八話 『雷vs怪鳥』

「ちょっと、大丈夫なの!?」
 屋上から少し離れた場所にいる響子は驚愕した。
 京助の武器である鎌が屋上から落ちてきたのだ。
 すなわち、京助は素手になったという事。
 響子の質問に不安そうな顔でうなずく薫。
「大丈夫。きっと……」
 会長が一緒に居る事はわかっているのだが、何分頼りになるのかならないのかわからない人物なの
で安心は出来なかった。
 その様子に苛立ち、響子は走り始めた。
「助けに行きましょう!」

    *   *   *

 そして、場面は京助と怪鳥に戻る。
 今、屋上にいるのは京助と怪鳥。会長はいつのまにかいなくなっている。その事に京助は気づいて
いたが、事情があるのだろうと放って置いた。
 向かってくる怪鳥を凝視しつつ、限界まで神経を研ぎ澄ます。
 京助は待っていた。
 それは来るかどうか不確かな物だ。だが、彼の直感は来ると確信していた。
(来い。俺が死ぬ前にな……)
 絶望的な状況にも関わらず、京助は不敵な笑みを浮かべる。
 右手から、一滴血が垂れた時だった。京助の待ちに待ったものが来た。
「来た!!」
 思わず京助は叫んでいた。
 待ちに待った物――突風がやってきたのだ。
 木々をしならせ、木の葉を舞わせながら京助に向かってくる。京助はこれを待っていた、絶体絶命
の状況を逆転する風を。
 しかし怪鳥も迫っていた。迷う暇は無い、勝負は一瞬だ。
 京助は限界まで能力を使い、風を集める。正直、京助自身もどちらが勝つかはわからない。
 だが、僅かな可能性だとしてもこれに掛けるしかなかった。
 限界まで風を溜めた京助は右手を突き出した。
 ――そして、決着の時は来る。
 巨大な影と小さな影は交差した。
 音にならない音が、辺りに響き渡った。
 建物全体が揺れるような衝撃波が生じ、京助は吹き飛ばされそうになる。
 それでも京助は立っていた。右手から血が噴出しても、立っていた。
「止まったな……」
 そう呟くと怪鳥の足を掴んだ。これで完全に固定される。
 そして動けない怪鳥の体に左手を突き刺した。怪鳥は微かに唸り、苦痛に顔を歪める。
「言ったろ。楽に殺せないってな」
 京助もできればこの技は使いたくなかった。出来る事なら楽に葬ってやりたかったのだ。
 唇を噛み、悲しみを心から消すと再び能力を発動させる。
「風よ暴れよ。<壊風(かいふう)>」
 その瞬間、怪鳥の中で風が吹き荒れた。全てを切り裂く……風が。
「グアアァァァッ!!」
 内側から切り裂かれる苦痛に悲鳴を上げ、のた打ち回る。血が飛び散り、京助にも掛かった。
 感じるのは、肉の切れる嫌な音と血の匂い。
 やがて怪鳥の目から光が消え、ぐったりと動かなくなった。
 それを確認すると手を引き抜いた。手には血がべっとりと付いていて、見るに耐えないものだった。
「これで、終わりにしてやる」
 京助がとどめをさそうと手を(かざ)したその時、京助の目に一つの影が映った。
 思わず怪鳥から注意が逸れ、そちらに注意が行く。
 その隙を怪鳥は見逃さなかった。目に光が戻ると、すかさず京助を突き飛ばした。
「くっ……!」
 咄嗟の事に京助は反応できず直撃する。体格差もあり京助の体は屋上の外へと弾き飛ばされた。
 京助自身何が起きたかわからなかった。一瞬の間がある。
「は?」
 そう呟いた瞬間、落下が始まり、すぐに屋上の下へと消えていった。
 屋上には怪鳥が一人残された。
「まさか、ここまでやるとは……」
 人間の、しかも少年にここまでダメージを受けた事に驚きを隠せなかった。
 丁度その時、後ろで声がした。
「え……?」
 立っていたのは……響子だった。
 必死に走ってきたようで額に汗を浮かべているが、その目はボーっと焦点が定まっていない。
「きょ、京助をどうしたのよ!」
「京助? 先程の少年か。お前も見たとおり、死んだ」
 その言葉を響子は一瞬理解できなかった。
 実際に見て頭では理解しているが、そうですかと納得できるものではない。
「案ずるな。直にお前もそうなる」
 ようやく響子は自分のいる状況を理解した。
 常人の数十倍の力を誇る能力者でさえ苦戦する相手に、常人の響子が勝てるはずが無い。
 響子は少し躊躇(ためら)ったが、ポケットからビンを取り出した。
「そう簡単には死なないわよ」
 それは会長から渡されていたビンだった。
 中に入っている液体は、先程までとは比べ物にならないほど光を放っている。
 そしてビンの蓋を開けると、その液体を飲み込んだ。
 ――その瞬間、世界から色が消えた。
 怪鳥も、投げ捨てたビンもそのままの位置で止まっている。
 どうやら響子以外の時まで止まっているらしい。
「……どういうこと?」
“こういう事さ”
 突然声が聞こえた。
 慌てて振り返るがそこには誰も居ない。
“ああ、無駄だよ。探したって見つからないから”
 その声は男性の声だ。詳しい年齢はわからないが二十代前後だろう。
 その声に最初は戸惑っていたが、思い当たる事があった。
「これが、魂の覚醒……」
“知ってるなら話は早い、とっとと済ませようか”
 声は間を置くと、ごほんと咳払いをして始めた。
“我、契約を以って汝に力を与えん”
 響子の体が微かに光り始めた。
 驚きながら自分の体を見つめる。
“汝の力は霹靂(へきれき)。汝が道を照らす力”
 その言葉と同時に、響子の中で何かが変わった。
 まるでスイッチが入ったかのように響子の体に力が漲る。
“これで契約は終了。これは僕からの助言なんだけど、道を間違えないでね”
 男がそう言い終えた途端、世界に時が戻る。
 ビンが地面に落ち、割れる。怪鳥も動き出し響子に襲い掛かる。
 響子は左に跳んだ。通常ならば避けるだけで済んだだろうが、今は普通ではなかった。力の加減が
わからず十数メートルも跳んでしまった。危うく落ちそうになるが、踏みとどまる。
「ほぅ、貴様も……」
 怪鳥はその動きから常人ではない事を悟る。
 警戒して飛翔しようとしたが、苦痛に顔を歪めた。やはりダメージは大きいらしい。
 それを好機と見た響子は一気に間合いを詰めた。
 怪鳥は爪で攻撃してくるが、それを跳ぶ事で避け怪鳥の背に着地する。
 そして、両手を当てると能力を発動させた。
 バチィッ、微かに光が散り、怪鳥の体を電撃が貫く。
 怪鳥は声にならない悲鳴を上げ、暴れ出した。
 響子は振り落とされるが、なんとか着地する。
「くっ……」
 体中から血を流しながら怪鳥は突進する。
 それを再び跳んで避けると、二度目の電撃を与えようとした。
 だが予測されていた。怪鳥は途中で立ち止まり、空中で身動きが出来ない響子に攻撃したのだ。
 防御の上から攻撃を喰らい、弾き飛ばされる。着地は出来たがやはりダメージは大きい。
「これがレベル2……」
 実際に戦ってみて、響子はレベル1との違いをはっきりと理解した。
 響子が能力に目覚めたばかりだという事もあるが、京助によってダメージは負っているはずである。
それなのに致命的なダメージが与えられない……。
 響子が分析しているように、怪鳥も冷静に考えていた。
(翼をやられているか。だがこの者はまだ未熟、飛ばずとも勝てる)
 その時、緊迫した場に相応しくない声が響いた。
「ありゃ? 来るのが遅かったか」
 元々ドアがあった場所から姿を表したのは――会長だった。
 その後ろから鎌を杖代わりにして京助が来る。
「これはどういう展開なんだ?」
「うーん、修羅場じゃない?」
「修羅場って……なんか別な意味に聞こえるんすけど」
 会長の言葉に京助がツッコミを入れる。
 響子と怪鳥はこの乱入者を見て、呆気に取られた。
 会長は真っ直ぐに怪鳥を見ながら言った。
「形勢逆転だね」
 確かに数で言っても三対一、おまけに一対一でも苦戦していたのだ。戦う前から結果は明らかだ。
 そして、会長は最後の説得をする。
「大人しく、倒されてくれないか?」
「……それは出来ない」
「そうか、残念だね」
 その声が怪鳥の耳に届いた瞬間、視界から会長が消えた。
 同時に怪鳥の目の前で爆発が起こる。
 怪鳥には何が起きたかわからなかった。突然爆発が起き、視界が暗くなっていく……。
 怪鳥が最後に見たのは肉体の限界量のダメージを受け、滅びていく己の体だった。
 進化しすぎたその肉体は光の粒子となって空気中に散り、最終的にそこには何も残らなかった。
「……終わったんですよね?」
「だね」
 会長は屈託の無い笑みを浮かべてうなずく。
 とりあえず、京助はほっとした。
「でも、何で死体まで消えてるんですか?」
「レベル2以上は体の構成物質が違ってね。死ぬと消滅するんだ」
 その説明を聞くと、京助は意識が薄れていくのを感じた。
(とりあえず……一安心か……)
 急速に視界が狭くなっていく。
 どっちが空でどっちが地面なのかも、ここがどこで何を見てるのかさえわからなくなってくる。
 ……そして、京助は眠りに付いた。

    *   *   *

 どこか遠くで声がする。
 これが夢なのかどうかはわからない。
 その声はこう言っていた。
「ありがとう」
 ――お礼? そんな事言われる理由は無い
「君は僕を救ってくれた、ありがとう」
 声はだんだんと小さくなり……消えた。
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++あとがき++ やっと戦闘が一段落ついた〜。 目標通り、響子も能力に目覚めたし。 これから楽しい学園生活を……送れそうにないね。 あの主人公にヒロインに、会長だしなぁ。 副会長は学園生活って感じじゃないし。 まあなんにせよ。主人公を活躍させよう。