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第七話 『風vs怪鳥』

 屋上には一羽の鳥がいた。
 いや、鳥なのかどうかは定かではない。何しろ大きさが車二台分ほどある。
 体長の数倍はあるだろう羽をたたみ、怪鳥は夜空を見上げている。
 怪鳥は夜空に浮かぶ月を見て、憂いていた。
 昔の事も、好きな物も、嫌いな物も何も覚えていない。覚えているのは魂を喰らう感覚と、怪鳥を
作った者に言われたたった一言だけ。
「命を喰らえ、それがお前の存在理由だ」
 怪鳥はそう言われて、命を与えられた。足りない物だらけの欠けた命を。
 それから欠片を埋めるため幾つもの命を奪ってきた。幾つもの魂を喰らってきた。人間、鳥、獣、
ありとあらゆる魂を喰らったが、魂の欠片は戻らなかった。得たのは命を奪う感覚だけ。
(我は滅ぶべきなのだろうか――?)
 そう考えた時、突然ドアが開いた。反射的に怪鳥は警戒し、入り口に視線を向ける。
 そこから現れたのは二人の人間だった。銀髪の少年と黒髪の気難しい顔をした少年だ。
 その中の銀髪の少年がにっこりと微笑んで、言った。
「こんばんは。君を退治しに来ました」

 京助は最初見た時、驚いた。
 大きさには慣れていたが、鳥だという事に驚いたのだ。今まで獣型には何度も出会ってきたが鳥型
の過進化体とは出会ったことが無かった。
 しかもその鳥は言葉がわかるようで、会長の言葉にうなずく。
「我を滅ぼしに来たか」
 低く、深みのある声だった。
 このまま倒される事を祈りながら京助は武器を構えた。
 一瞬の油断が死につながる。今までの経験から身に染みていた。
 安心させるため、会長は一人近づいて話し合う。
「君はレベル2か。言葉はわかるね?」
 “レベル”とはどれほど魂を喰らったかという事だ。高いほど力が強く、知能も発達している。
 レベル2になれば会話はおろか、自我まである。運がよければ説得することも可能だ。
 会長の質問に当然とばかりに怪鳥はうなずく。
「無論だ。貴様らは何者だ?」
「僕らは君らを倒す組織……みたいな物かな。それで相談なんだけど、大人しく倒されてくれない?
出来れば無駄な戦いは避けたいんだ」
 会長は本音を漏らす。
 怪鳥はそれを聞くと、空を見上げ少し黙った。
 なぜか京助にはその表情が酷く悲しげに見えた。
「答えは……」
 怪鳥は会長と京助を交互に見た。
 そして、覚悟を決めた様子で会長を見ると言った。
「断る、だ!!」
 その途端に怪鳥は飛び、爪で会長を狙った。
「……残念だね」
 会長は上半身を倒し、爪を避ける。
 怪鳥は通り過ぎると、後ろの貯水槽をいとも容易く引き裂いた。
 中身は空だったが、残骸が京助に向かって飛ぶ。
「危ねえ!」
 ぶつかる寸前に鎌で切り裂き激突を防ぐ。残骸は地面に落ち、派手な音を立てた。
 怪鳥は上空を旋回し、隙を窺っている。
 それを見て、京助は声をかけた。
「会長、今回は俺行きます」
 会長の能力は触れることによって発動する。だから空を飛ぶ相手には不利だと思ったのだ。
 少し迷っていたようだが、今回は素直に引き下がった。
「そうだね、今回は任せるよ」
 奇妙だと思いつつ、京助は前に出る。
 怪鳥は上空からその様子を見ていたが、次の瞬間理由がわかった。
 ヒュ、と前触れなしに怪鳥の目の前に風が吹いたのだ。それもただの風ではなく、触れた物を切り
裂く鎌鼬(かまいたち)のような風が。
「そのまま上空に居ると、このまま落とすぞ!!」
 上空に向けて京助は怒鳴った。
 その様子を見て、怪鳥は含み笑いを浮かべる。
(楽しい、この心の底から震える感覚。これは――何だ?)
 怪鳥は初めて感じる恐怖を楽しんでいたのだ。
 再び飛んで来る風の刃を避けると、怪鳥は一気に急降下した。その間にも風の刃は飛んでくるが、
その速さのせいで全く当たらない。
 そして、怪鳥の爪と京助の鎌が衝突した。
 鉄と鉄がぶつかるような、甲高い音が響き渡る。
 そのまま力と力で押し合っていたが、京助は鎌を振って怪鳥を弾き飛ばした。更に風の刃で追い討
ちをかける。しかし怪鳥は大きく羽ばたき、攻撃を避ける。
(速すぎだろ。あいつの動き)
 京助は舌打ちをする。
 怪鳥の動きは、人間の限界まで鍛えられた動体視力でも完全に動きを捉えることが出来ないのだ。
 そう愚痴ってはいるが、京助の目は輝いていた。絶望の色など無い。
(でも……どうにかするしかないか)
 京助は鎌の柄をしっかり握り、上半身を捻った。
「風よ瞬け。<疾風(しっぷう)>」
 上半身を回転させるようにして鎌を振り抜き、風の刃を飛ばす。
 その速度はさっきの攻撃の比ではない。
 予想外の速さに反応が遅れ、風の刃は怪鳥の体に掠った。バランスを崩した怪鳥に風の刃を連続で
飛ばすが、当たる直前、怪鳥は羽で風を起こし相殺する。
 距離を置き、体勢を整えると二人は対峙した。
 緊迫した空気が広がり、両者はにらみ合う。僅かな油断が身を滅ぼす事を二人はわかっていたのだ。
 硬直状態がしばらく続いたが、先に京助が動いた。地面を抉る様にして鎌を振りぬき、風を飛ばした。
地面を抉りながら怪鳥に向かう。怪鳥は羽で風を起こし、再び相殺した。
 だが、コンクリートの破片を巻き込んでる事に気づかなかった。
 破片が顔にあたり、怪鳥の視線が一瞬逸れる。
 しかし、その間が命取りとなった。京助が接近し、鎌を振りかぶるには十分すぎる時間だった。
 鎌は怪鳥の体を切り裂き、鮮血を散らせる。血がぽたぽたと地面に斑点を作った。
「ぐっ…!」
 微かに唸ると、慌てて京助との距離を開ける。
 確かに鎌はあたったのだが、反射的に身を退き致命傷を避けていたのだ。
 そのおかげでまだ動けていた。
 怪鳥は空中旋回すると、京助に向かって襲い掛かった。
 ぎりぎりで右に避けたが、掠ってしまい右腕から血が噴出す。
 怪鳥は再び空中旋回すると、再び攻撃を仕掛けた。
 なんとか避ける事は出来たが、鎌を落としてしまった。
「しま…っ」
 鎌は拾う前に怪鳥に吹き飛ばされ、遥か下の地面へと落ちて行く。
 からん、と微かに音が聞こえた。
 これで、京助の武器は無くなった。
「これで武器は無くなった」
 遥か上空から声が聞こえる。
 上を向くと、視認出来る限界の距離に怪鳥は居た。はっきりと見えているわけではないが、今までの
倍以上の高さなのは間違いないだろう。
「さらばだ、少年。楽しかった」
 声が京助の耳に届いたとき、怪鳥は急降下を始めた。
 その速度は触れるものを一瞬で切り裂き、命を奪う速さ。
 それをぼんやりと、まるでテレビでも見てるかのように京助は見ている。
 あと数秒で届くという所まで来た時、京助は覚悟を決めた。
 そして、誰にも聞こえない音量で呟く。
「悪いな。楽に殺せそうに無い」
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++あとがき++ 今回は戦闘85%、その他15%ぐらいで作りました。 結構大変だったのは、会長と怪鳥の使い分けかな。変換するのが面倒でしょうがなかった。 あまり怪鳥はもう出さないようにしよう。会長が出る話では。 まあ、なにより……主人公活躍できて良かった! 今までただのツッコミ以外なにもしてなかったからなぁ。 このまま緊迫をキープできるように頑張りたいですね。