第六話 『発生』
屋根の上を駆け抜けるのは影……それは形すら掴めぬほど速い。
例えるなら――風、それは風だった。そう感じるほどそれは速い。
一つの影が口を開いた。
「会長、交代しません?」
高速で移動していたのは……京助達だった。
響子も京助におんぶされて付いてきている。
それが嫌になったのか、会長に頼もうとしてるようだ。
会長は面倒だと思ったらしく、しどろもどろに言い訳する。
「あの、その、ほら僕は華奢だから」
「……それは私が重いって言いたいの?」
京助の背中から響子が口を挟む。
直接ではないが間接的にでも重いと言われている本人にとってみれば、この会話はストレス以外の
何物でもないだろう。
「もちろんその通……いってぇ!」
正直な感想を京助が述べようとしたのだが、言葉の途中で後頭部を殴られた。
「何すんだよ」
「うるさいっ!」
顔は見えなかったが、怒ってるらしい事は京助にもわかった。
今何か言ったら関係無しに殴られることは予測できたので、京助は口を噤む。
しばらくして目的地が見えてきた。
そこには鉄筋コンクリートで出来ている建物があった。人気は無く、塗装が剥がれ落ち、外周には
ドラム缶が転がっている。壁には所々傷や落書きがあった。
今は使われなくなった廃墟といった所だ。
「……あそこっすか?」
「不気味な場所だねぇ」
微妙に話が組み合っていないが、いつもの事なので京助は全く気にしない。
それに何か間違っていたら薫が何か言ってくるので、間違ってるわけではなさそうだが。
だんだんと目的地が近づき、到着した。
近づいてみるが、近くで見るとますます気味が悪い。
外には建物を取り囲むように紐が張られ、一定の距離を置いて立っている看板には「立ち入り禁止
・呪われても責任は持ちません」との文字が書いている。
おまけに建物のガラスは割られ、コンクリートに皹が入ってる部分もあり、風の音なのか中から奇
妙な唸るような音が聞こえてくる。肝試しをするにしても絶対にここは選ばないだろう。
「この中にいる様だね」
「……会長、先にどうぞ」
京助は青い顔で薦(めた。
彼は怪談の類が嫌いなのだ。怖い話を聞かされるだけで思わず耳を塞いでしまうほどの嫌いぶり。
そんな京助にとってここは地獄に等しかった。
その様子に会長は感づく。
「京助君、怖いの?」
「こ、怖くはない……け……ど」
だんだんと声が小さくなる。
京助は改めて建物を見上げ、ますます顔を青くした。
「そんなんじゃ響子ちゃんに格好付けられないよ?」
「いや、別に格好付けなくていい……」
全てがどうでもいいという様子で京助が小声で言う。
その様子に見かねて副会長が口を出す。
「早く、入りますよ」
中は薄暗かった。
建物には電気自体が通っていないし、通っていても蛍光灯は全て割られている。それに建物の構造
上、外からの明かりもほとんど入らない。
京助の視力でも数メートル先までがやっとだった。
その暗さと不気味さに、京助は今にも倒れそうだ。
「そういえば、何でこいつが付いてきてんだ?」
いくら能力者がいるとしても、まだ常人の響子にここは危険だと思ったのだ。
その気持ちを知ってか知らずか、とぼけるように会長は言う。
「あ、そういえばそうだね。何で?」
「いや、俺が聞いてるんですけど……」
質問に質問で返されて答えられるはずがない。わからないから質問しているのだ。
京助が会長を見つめていると、会長はわざとらしく咳払いした。
「まあ、多分色々あるんだよ」
色々という言葉で片付ける会長。
(どうせ理由なんて無いんだろうな……)
そんな事を考えながら進んでいくと、外でも聞いた唸り声が聞こえて来た。
地の底から響くような、低い唸り声が。
この状況下なので、京助は一応聞いてみた。
「幽霊って事はないんですよね?」
「どうだろうね?」
会長は不気味に微笑む。その笑みはますます京助を不安にした。
別に否定されても怖い事に変わりは無いのだが、こういう時には否定してくれた方が精神的に落ち
着くのだ。そんな事に会長は気付いて無さそうだが……。
五階への階段を上ろうとした時だった。
「――!」
響子以外の三人は気配を感じ取った。
京助は警戒しつつ呟く。
「これは――」
「過進化体みたいだね」
過進化体……昨日戦ったあの化け物の名称。
彼らはその気配を空気の流れや微かな音などから悟ったのだ。常人に出来ることではない。
潜在能力を引き出された能力者だから感じることが出来たのだ。
こんな状況下に置かれながら、会長は少しからかうように聞いた。
「化け物と幽霊、どっちがいい?」
「もちろん……」
京助は悩む事無く答える。
「どっちも嫌です」
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++あとがき++
やっと戦闘シーンに入れる。
長い、長かった。ここまでの道のりは…。
アクションが中心なのにいつのまにか色々説明が入ったりして
後延ばしになってたからなぁ。
でも、ようやく戦闘シーンに入れる。
よーし、頑張りますか!
もちろん、一人で盛り上がってんじゃねえよ、なんてツッコミは無しの方向で。
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