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第五話 『クロスワード』

「それで、何が聞きたいんだっけ?」
「まず、こいつは誰?」
 響子を指差し、尋ねる。
 会長は馬鹿だなぁと両手を横に広げ、首を振った。
「響子君でしょ」
「いや、そうじゃなくて……」
 論点のずれている会長を諭す。
「名前じゃなくて、何者なのかって事。能力者なのか、それとも本部の連中なのか」
「両方はずれ。ここの創立者の孫……」
「……」
 京助はこめかみを抑えた。そうしていないとボケ路線全開の会長に頭痛がしてきそうだった。
 その様子が馬鹿らしかったのか、見ていられなくなったのか響子が口を出した。
「あなた達の使ってる“能力”を発見、及び“過進化体(かしんかたい)”への対抗部隊の設立。これらの事を行な
ったのが私の祖父。……ちなみに過進化体というのは、昨日の化け物の名称」
 説明し慣れてる人でもこうは話せないだろうと思えるほど、淀みなく喋っている。
 同い年ながら京助は感心した。
 そんな感心を余所に響子は説明を続ける。
「そして、“魂の覚醒”。それは、正確に言葉で表すのは無理な事象ね。それでもあえて言うとすれ
ば、自分の潜在能力を全て引き出す事。それにより身体が強化され、能力に目覚める。成長……とい
うより進化に近いわね。でも、その強大な力は逆に危険でもあるから“能力者”は本部で管理される
のが通例。……まあ、この生徒会はちょっと例外のようだけど」
「……」
 言葉が出なかった。
 それは説明がわからなかった訳ではない。ただ、あまりにもあっさりと説明が済んでしまって拍子
抜けしまったのだ。短く済んではいたが、要点のまとまった完璧な説明だった。
 反応がない事に痺れを切らして響子が聞く。
「これで、質問は無いわね?」
「あ、ああ……」
 京助が口篭りながらうなずいた。
 その様子に響子は満足したようで会長に話し掛ける。
「京助はもう納得したわ。これで始められるわね?」
「そうだね……」
 あまりにもあっさりと進んでしまったので、会長は少し退屈そうな表情をした。
 仕方ないかと呟いて、制服のポケットから小さな透明なビンを出した。中には微かに紫がかった半
透明な液体が入っている。心なしか光を放っているように見える。
「これが……」
「待ちに待った物だよ」
 それを放ると、響子はそれを両手で受け取る。そしてまるで宝石でも見るかのような眼差しで、光
に(かざ)したりして紫がかった液体を眺めている。
 何がすごいのか京助はよくわからなかったが、疑問が解決したので特に気にしなかった。
 響子がそのビンを開けようとした時だ。突然、鳥篭が揺れた……いや、正確にはピエロが動いた。
カチカチと嘴を鳴らし、首を振り始めた。この状態は――
「仕事っすか」
「仕事だね」
 会長はクロスワードから顔を上げた。響子が説明している間もやっていたので、粗方埋まっている。
残る空欄は一つとなっていた。
 ……やがて、ピエロの動きが止まった。
『あ、あー、……ん、まじ、俺出てる? 出てるよ! よっしゃ! いや〜最近仕事が多いおかげで
俺の出る機会が多いんだよなぁ。それだけは感謝だな。……で、仕事だよ。皆さん』
 相変わらずお喋りな奴だ、この状態のピエロは。
 ピエロの言葉を会長はにこやかに、薫は無表情で、京助はやる気のない顔でそれを聞き入れた。
 響子はこの喋るオウムには驚いたようで、きょとんとしている。
 驚きのあまりか、ぞんざいな口調になってしまう。
「え、なに、この……オウム?」
 その無礼な態度にオウムのピエロは説教した。
『失礼な譲ちゃんだな。指で指すなんて失礼だと思わないのか? まあ、今機嫌が良いからどうでも
いいけどさ。そもそも譲ちゃんこそ誰? 見慣れないけど……って仕事だっての!』
 出来るならそのまま無視しようとする三人にピエロは呼びかける。
 京助はわざとらしくお腹を抑え、
「急に調子が……」
「仮病は無しだよ。京助君」
 いつか交わされた会話の逆を再び交わしつつ、二人は立ち上がった。
 薫は既に出かける用意をしてある。
 会長はクロスワードの最後の一つを埋めると、ペンにキャップをした。
「さあて、仕事しますか」
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++あとがき++ なんとか待機時間も終わってアクションに入れそうです。 どこまで設定を出そうかと悩みに悩んだので 結構時間が掛かってしまった……。 まあ、気を取り直して次回からアクション頑張ろう。