←前の話に戻る  /  小説のページに戻る  /  次の話に進む→


第四話 『待機時間の長さ』

 ――ここは生徒会室。
 会長はソファーに横になってごろごろしていて、薫は相変わらず会長がするはずの雑務をこなして
いる。一人、不機嫌な顔をしているのは京助だ。
 それもそのはず、昨日の出来事の後何も説明されないまま解散になったのだ。皆は『魂の覚醒』と
やらを知っているようだったが、京助はもちろん知らない。
 そのせいで機嫌が悪かった。
「会長、あいつ来るんすか?」
 今日だけで十回以上言ったセリフを繰り返す。
 生徒会室に来て、真っ先に聞いたのだが、「昨日の少女が来てから」と言って会長は教えてくれな
かった。薫もその意見に賛成のようで結局教えてもらえていない。
「そのはずだね」
 会長は雑誌のクロスワードパズルを解きながら答える。どうも彼からは緊張感というものが感じら
れない。いざとなったこの人はすごいのだが……。
 数分待ってもまだ来ないので、再び聞こうと京助が思った時だった。
 ガチャッ、単調な音と共にドアが開かれた。
 そこから入ってきたのは……昨日の少女。
 室内を一瞥すると、堂々と中に入ってきた。
 会長は起き上がってにこやかに、薫は目礼して、京助は軽く視線を動かして出迎える。
 彼女は遠慮する様子もなくソファーに座った。
 会長は彼女に駆け寄ると、親しげに頭を撫ぜた。
「いやー、よく来たね。本当大きくなって〜」
 そんな会長を一瞥し、皮肉るように言った。
「あんたは何も変わらないわね。のんきな表情も昔のまま」
「それは褒めてるのかな?」
 会長は相変わらずにこにこした表情で尋ねる。
 そんなわけないだろ、と京助は心の中で呟いた。
 彼女の方は目的以外なにもするつもりがないようで、話を進ませる。
「まあ、そんな事どうでもいいわ。早く用件を済ましましょう」
 自己紹介も無しに話を進めた。
 用件とは昨日言っていた『魂の覚醒』とやらだろう。
 このまま進まれては説明されそうにないので京助が口を挟む。
「その前に――」
 説明してもらおう、と続けたかったのだが、
「自己紹介でもしようか」
 会長に口を挟まれた。
「いや、その前に説明……」
「初めての人とは自己紹介。それぐらい当たり前でしょ?」
 普段、礼儀の欠片もない会長に礼儀を語られて京助はなんとも言えなかった。
 京助の無言を肯定と取り、会長は紹介し始める。
「まず、僕はここの生徒会長……まぁ、説明の必要は無いか」
 苦笑いを浮かべて、指を京助に向ける。
「このいかにもやる気の無さそうなのが雑用係の風岡 京助君」
 雑用係と言われたのは初めてなので、多分今決めたのだろう。
 今度は指を机に向ける。
「そして、机に向かってるのが副会長の神田 薫君」
 薫は顔を上げ、律儀に一礼する。
 京助は珍しく聞く副会長の名前に京助は少し眉を動かした。
 今まで副会長としか呼ばれていなかったのだ。
「それで、最後に……」
 会長が説明しようとしたが、その前に彼女は自分で答えた。
「私は村本(むらもと) 響子(きょうこ)」
「ん? 村本っていうと……」
 京助の問いに響子は頷いた。
「察した通り。私はこの学校の創立者、村本 翔陣の孫よ。京助」
 いきなりの呼び捨てに文句を言いたかったが、話が進まなくなるので我慢する。
 とりあえず、これで全員の紹介が終わった。
 響子はせっつくように会長に詰め寄った。
「それじゃあ、『魂の覚醒』を――」
「いや、だから何の事だよ。『魂の覚醒』とかなんとか……」
 気は進まないが、知りたいので口を挟む。
 すると、響子はまるで未知の物でも見るかのような目つきで京助を見た。
「え、これ、部外者?」
 最早、「これ」呼ばわりされている。
「それなんだけどね……」
 ばつの悪そうな表情で会長は頭を掻いた。
「京助君はちょっと前に入ったばかりで、まだ説明してないんだよ」
「説明する暇はあったような気がするけど」
 ぼそっと京助が漏らすが、それを無視して会長は続ける。
「だから、先に説明しないと駄目なんだよ。……全く京助君も困り者だね」
「俺が悪いように言うなよっ!」
 京助が生徒会に入ってから数週間――説明する暇は嫌というほどあった。京助から聞きに行った事
もあった。しかし会長は何かと理由を付けては後延ばしにして来たのだ。
 どう考えても会長の責任である。
「あんたやっぱり変わってないわね……」
 呆れ気味に響子が呟く。どうやら昔にもそんな事があったらしい。
 ごまかすように大きな咳をして会長は言った。
「そういう訳で、説明しますか」
←前の話に戻る  /  小説のページに戻る  /  次の話に進む→
◆メインページに戻る◆
++あとがき++ 進むペースが遅いなぁ。 まだ説明してないし。 いい加減説明終わらせて早く戦闘を出そう。 じゃないと退屈だろうし。