第三話 『謎の少女』
「終わったっすね」
「……だね」
血を散らせ、ぴくりとも動かない化け物を見下ろしながら言った。
いつのまにか京助の手からは鎌が消えている。
「終わりましたか?」
会長が来るまで戦っていた男達が戻ってくる。
「あとはあんたら」
京助は手をひらひらと振り、化け物に背を向ける。
死体の処理や破損した遊具等の修理、その他もろもろの事は彼等に任せれば大丈夫だろう。それが
彼等の仕事なのだから。
バンダナを付けた男は辺りを見回し、感心の意を込めて言った。
「流石は“ムラモト”の設立した部隊ですね」
「おおげさだね。君ら“本部”と違ってただの生徒会だよ」
「生徒会に偽装した部隊……これでいいですか?」
「強情だね……」
皮肉な言い回しに会長は苦笑する。
特に質問はしてないが、京助はムラモトや本部などの意味は知らない。それもそうだろう、彼がこ
ういう事に関わりだしてからまだ一ヶ月も経っていないのだ。
「あとは任していいかい?」
「処理だけが俺等の特技ですよ」
自嘲するかのようにそう言い、本部と呼ばれた人達が化け物に近寄った時だった。
「グゴオオオオオ!!」
何かが咆哮がした。
直後に轟音が鳴り響き地面が揺れた。大気が振るえ、木が軋み、辺り一帯に皹が入る。地震の発生
地帯でさえこれほど揺れないだろうと京助は思った。
本部の者達も驚いている中、会長は一人落ち着いている。
「油断大敵ですよ。会長」
「でも、君がいるじゃないか……副会長」
京助が後ろを向くと、薫が居た。
京助と同じく帰宅途中だったらしく制服のまま、いつも通り冷静沈着で。
掻き上げた髪が風に靡いた。薫の整った顔と相成って、それは思わず見とれてしまいそうな、幻想
的な光景だった。
しかし、その下にはそんな光景に全くふさわしくない物があった。
赤く染まった――肉の塊だった。
それの腕は京助の数センチ後ろまで届いていた。もっとも、最早原形を留めていないので腕かどう
かはわからないかったが……。
推測するに、あの化け物はまだ生きていて反撃しようとした……多分、そうだろう。それを薫が何
らかの方法で止めた。そこまでは良いが、問題はどうやって止めたかだ。化け物は原形を残さない程
潰されていた。だが、薫の華奢な体ではそこまでの力を出すのは不可能だ。しかも武器は手に付けて
いる鉄甲ぐらいで他には見当たらない。
一体、どうやって――?
薫は京助の方を向いて、注意する。
「あなたも気をつけなさい」
「……了解」
京助は素直に頷く。
薫の言葉にいいえと言う勇気は京助には無かった。
話の輪から外れていた本部の者たちはおそるおそる尋ねる。
「今度は本当に終わった……んですよね?」
「ええ。この状態で生きてる事は無いと思います」
薫は冷静に答える。その言葉に、片付けようとした彼らは納得した。
原型すら留めていないこの状態で生きてる事は……ありえない。
長くなりそうだったので、京助がまとめようとしたが、
「それじゃあ解散……」
「ちょっと待った!」
静止の声が掛かった。京助は嫌な顔をして声の主を見た。
声を発したのは公園に居た少女だった。
肩の辺りで切りそろえられた髪にやや釣り上がった瞳、刺々しい威嚇するような表情をしているが
十分美人の部類に入る顔立ちをしている。見た目はただの少女なのだが、その瞳の奥には秘められた
決意のようなものが感じられる。
少女とは言ってはいるが、年齢は京助と変わりはなさそうだ。
「……何?」
間が空きそうだったので仕方なく京助が聞く。
「あなた達が能力者ね」
京助の言論を無視し、ジロジロと無遠慮に三人を眺める。なんとも失礼な奴だが、一応放って置く。
薫は相変わらずの無表情、会長は誰かわかっているようで楽しそうな表情をしている。
少し息を吸って京助は聞いた。
「副会長、誰なんですか? こいつ」
「いや、何で僕に聞かないの?」
「会長だったらどうせ教えてくれないでしょう?」
「……」
図星のようで目を逸らし、黙り込む会長。
京助の問いに確信が無いのか尋ねるように薫が言う。
「……村本( 翔陣(の孫……ですよね?」
「ええ。あなたは……現在の副会長ね」
会釈しつつ頷く薫。
話の意図が見えないので、ふと視線を逸らすとつの間にか本部の者達と死体は跡形も無く消えてい
た。曲がっていたジャングルジムも、飛び散った血も、皹の入った地面も完璧に戻っていた。
だから誰も気づかないのだろう。完璧に処理しているから証拠すら無い……。
少し驚いたが、京助は視線を戻した。
「で、何でここに来たんだ?」
「あ、それそれ。今日来たのは他でもない――」
彼女は思い出したように言った。
「――魂の覚醒のためよ」
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++あとがき++
第三話完成です。
なんかアクションが少なくてつまらないかも。
っつーかいきなり新キャラ登場してるし・・・。
ま、つまらなくならないように気をつけよう。
次回はもっと面白くなればええなぁ。
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