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第二話 『戦闘』

 帰り道の途中、京助は立ち止まり、ふと顔を上げた。
 微かに振動を感じたのだ。常人には到底感じる事の出来ない微弱な振動だが、京助にははっきりと
わかる。その振動は何かが高速で移動し、それによって生じるものだ。
 それを感じ取った京助は思い切り顔をしかめた。
 誰かわからないわけではない。着地音の音質、リズム、空気の振動の振幅などで、それが誰なのか
はわかっている。わかってはいるのだが――気が進まない。
 躊躇(ちゅうちょ)していたが、はぁ、と一際大きいため息を付くと頭を掻いた。
「行かないと、駄目だよなぁ……」
 その呟きが空気を振るわせた時、既に京助の姿は無かった。

    *   *   *

 夜の公園、そこでは五つの影と一つの巨大な影が対立していた。
 五つの影はどうやら人間らしい、大きさや動作から推測できる。だが、巨大な影は不明だ。何かの
獣のようなシルエットをしているが異常な大きさをしている。高さは人二人分ほど、横幅は大人が両
手を広げても全然足りないのだ。どう考えてもまともではない。
 化け物――そう表現するのが的確かも知れない。
 五人の内一つの影は言葉を発した。
「ちっ、持たないか」
 所々赤いバンダナを付けた男だ。鍛え上げられた身体を黒っぽい服に身を包んでいる。その両手に
は銃器が握られていた。
 バンダナの男は空になった弾倉を代えた。
 その隙に隣の男が化け物に向けて発砲するが、致命傷には程遠い。かすり傷にもならないだろう。
 隣で撃っていた男も悲鳴のような声を上げる。
「おい、このままじゃ終わりだぞ!」
「わかってる!」
 バンダナの男は怒鳴りつつ化け物に向かって発砲する。
 だが、今度は避けられた。その動きはまるで完全に見切っているかのようだった。それを見ていた
バンダナの男は驚愕した。これじゃまるで――
「少しずつ……成長してるのか?」
 先ほどまで銃弾を避けることなど出来なかった。それが、ほんの数十分で見切ってしまったのだ。
尋常じゃない対応力……それは彼らの常識を遥かに上回っていた。
 そして、彼らの唯一の武器を避けられたとなると――勝ち目は無い。
 皆が諦めかけたその時だった。
 緊迫した雰囲気に相応しくない声が彼らの耳に届いた。
「やっ、諸君」
「……遅かったですね」
 バンダナの男は文句を言うが、その顔には安堵が浮かんでいる。
 声の主は、丁度月を背にして時計台の上に立っていた。銀色の髪を風に靡(なび)かせながら。
「色々あったんだよ」
 銀髪の少年――会長は時計台から跳ぶと、化け物の前に着地した。
 同時に男達は巻き込まれるのを避けるかのように怪物から離れていく。
 会長は化け物と対峙した。その顔には恐れの色は見えない――いや、むしろ微笑んでいた。こんな
こと大したことではない、と言うかのように。
「さぁ、ちゃっちゃと終わらせ――」
 その言葉が終わる前に化け物の攻撃が来る。
 無粋だね、と呟きながら右に避けるが尻尾での追撃が来た。それも左に避ける。
 何度も、何度も攻撃するが紙一重で当たらない。無論化け物の攻撃も並大抵の速さではない、常人
なら気付く事無くやられる速さだ。なのに――
「全く、当たらない……」
 化け物と会長の戦いを見ていたバンダナの男は呟いた。
 先程まで自分達があれほどまで苦戦していた相手に、少年は対等に――いや、圧倒的に勝っている。
もし夢を見ようとしても、こんな現実性(リアリティ)の欠けた物は見ないだろう。
 それほどまでに会長は強く、圧倒的だった。
 化け物は大きく横に薙ぎ払った。会長はそれを跳んで避け、化け物の頭上へ向かって拳を叩き込む。
次の瞬間、信じられない事が起こった。物凄い爆裂音と共に化け物の頭上で炎が上がったのだ。
 それは、言うなれば“爆発”だった。皮膚を焼き、肉を焦がし、衝撃を与える。それは銃弾でさえ
不可能だった深い傷を確かに与えていた。無論、火薬の類は何も使っていない。しかし、肉の焦げる
嫌な臭いが幻覚でない事を証明している。
 どうやったのかは不明だが、意識的に使った事は間違いない。会長は驚きもせず微笑んでいるのだ。
 化け物は致命傷を負ったものの、まだ動けるようで会長と間を空ける。
 そして、二、三度足で地面を掻くと、会長へ向かって真っ直ぐと突進してきた。
 会長は鉄製の遊具を背にしてぎりぎりまで引き付け、避けた。
 グゴッ! 化け物は鉄製の遊具に衝突した。鉄製の遊具が曲がったが流石に自分自身へのダメージ
も大きかったようだ。骨も何本か折れたらしい。
(後先を考えてないようだね……)
 そんな事を考えつつ、再び突進してきた化け物を跳んで避ける。
 しかし、それが失敗だった。
 化け物は成長する、それを会長は忘れていた。化け物は途中で止まると、上空から落ちてくる獲物
を待ち構えた。空中の標的ほど狙いやすい物は無い。
 まずい! 会長がそう思った時、微かな風が公園に吹いた。
 風はまっすぐと化け物に向かい、化け物を撫ぜると同時に引き裂いた。血飛沫が舞い、化け物は苦
痛に悲鳴を上げる。
 まるで見えない斬撃……鎌鼬(かまいたち)のようだった。
 風の吹いてきた方向を見て微笑んだ。誰なのかは振り向かずともわかっている。
 背後の闇からゆっくりと歩いてきたのは――
「こりゃ、俺の出番はないか。会長」
「いやいや後は任せるよ。……京助君」
 ――京助だった。
 制服姿で鎌を肩に掛けて歩いてくる。
 鎌と一概に言っても大きさが半端じゃない。大きさは京助の身長――いや、それ以上だ。柄は闇に
溶ける漆黒、刃は白くシンプルな形をしている。柄の先端には鎖が付いていてその鎖は京助の右腕に
巻きついていた。異様なまでの大きさを誇る鎌だが、不思議と存在感が感じられなかった。まるで、
それは幻だというかのように。
「“レベル1”の後半ってとこか」
「多分ね」
 化け物が側に居る事など全く気にせず話す。
「んじゃ、締めは俺がしますか」
 二人の間に化け物の攻撃が来る。会長は右に、京助は左に避けた。
 化け物の側面に避けた会長はそのまま殴りつけた。再び爆発が起こり肉を焦がす。
「グゴオオオオ!!」
 化け物は痛みに呻き、暴れだした。全く定まっていない攻撃を避けるのは容易い。
 京助はいつのまにか化け物の頭上に跳んでいた。そして鎌を大きく振りかぶると――
「今、解放してやる」
 一気に振り下ろした。
 鮮血が飛び散り、化け物は崩れ落ちた。
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++あとがき++ 第二話ですね。 早速戦闘を入れてみました。 戦闘描写だけを入れると難しいし面白くないので 会話も入れてみようとすると緊迫感が出ない。 うーむ難しいもんですね。