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「ちくしょう! なんでだ!」
血まみれの少女を抱いて俺は叫んだ。
「殺してやる、絶対に・・・」
憎い、憎い、全てを破壊したい。
体の中で燃えるような怒りが渦巻くのを俺は感じた。
「憎まないで・・・」
それを止めるかのように蚊の鳴くような声で少女は言う。
そして、いつもと同じ子供らしい笑みを浮かべた。
「復讐なんてろくな事ないから」
だんだんと手を握る力が弱くなってく。
(助からない・・・)
頭の中ではわかっていた。わかっているつもりだった。
それでも尚、少女の体をゆすって必死に声を掛ける。
「死ぬな! 死ぬなよ! せっかく友達を見つけた! だから・・・」
少女の手が俺の手から滑り落ちた。
その時、俺の中に鬼が生まれた。

友情と言う名の鎖

薄暗い部屋。
部屋の中央に椅子があるで余分な物は一切無い。
窓から差し込む月明かりが唯一の明かりだった。
中央に置かれた椅子には青年が座っていた。
長い銀髪を後ろに束ねて、長い足を組んで沈黙を守りながら。
何かを待つように、思い出すように黙っていた。
「どこから語れば良いのやら・・・」
青年はおもむろに口を開いた。
窓の外から星空を眺めて、再び青年は言った。
「あいつと会ったのはいつだったか・・・」
青年は語り始めた・・・。

俺は旅をしていた。
目的は無く、ぶらぶらと自分の好きな道を進んでいく。
そんな旅を続けていた。
あと何年もしないうちにこんな事も出来なくなる。
だから、せめて自由に過せる時間を最後まで自由に
過したいと思ったから旅を続けていた。
気ままな旅で・・・終わるはずだった。

ある日、俺は食料と必要な物を数点買うため久しぶりに街へ来た。
元々、俺は人が好きではない。
表情とは裏腹に何を考えてるかわからないとことか、
必ずどこかに醜い部分があるから。
だから、人ごみをいつも避けていた。

――あの時、違う街で買い物をしてれば・・・いや、結局あいつとは出会ってた。
そんな・・・気がする。

「どいて下さい〜〜!!」
買い物も終わり、ぶらぶらと歩いている俺の後ろで声が聞こえた。
振り向くと、緑色・・・いや、緑髪のそいつが人ごみを縫うように
こちら側に近づいて来ている。
そいつは白いTシャツ、黒い短パンと活発的で動きやすそうだが、
後ろから来ている連中は黒い服、ズボン、サングラスとかなり怪しい。
理由はわからないがどうやら追われているらしい。
普段は放っておく俺だったが、追われているのが子供だったせいもあり、
その時は助けようと思ってしまった。

――この選択が間違いだったか・・・これの答えはまだ出ていない。
そもそも選択肢があったのかさえ疑問に思える。
これが、あいつと俺の初めての出会いだった。

そいつと俺が横に並んだ時、そいつの襟を掴んだ。
「ぐぇっ・・・」
奇妙な声を上げ、そいつは止まる。
「なにす・・」
「黙ってろ」
俺はそいつに背を向け、構えた。
自慢するわけでは無いが、俺は一般人よりは強いと思う。
元々、剣術や格闘術にも長けてたし、旅をしている間に実践も山ほど積んだ。
だから、数秒後には追って来た奴等は全員、地面に突っ伏していた。
「・・・」
そいつはその出来事に驚いたのかあっけに取られている。
別にお礼が欲しいわけでも無いのですぐさま立ち去ろうとした・・・が、
「・・・なぜ服を掴む?」
そいつは子供らしい笑みを浮かべ、服の裾を掴んでいた。
「わ・・僕を・・・護ってください」
「・・・」
今度は俺があっけに取られる番だった。

「まず、お前は誰だ?」
一旦あの場所から離れ、喫茶店で一息ついてから俺は言った。
そいつはと言うと、さっき走ったせいかテーブルにぐったりとしている。
「ええと・・・リフ、リフ・ジーノです」
「俺はエル・リーノート」
そいつ・・・リフはガバッとテーブルから起き上がった。
「エル、エル、エル・・・あぁっ!! あのミージュ王国の・・もふぁ」
「馬鹿、声が大きい」
慌ててそいつの口をふさぐ。
「それにしてもこんな所にいるなんて・・・」
クリクリとした可愛らしい目が驚きの色を浮かべ、俺を見る。
「でも、お前だって結構な奴じゃないか。俺の記憶が確かだとオア国の・・」
「ああぁーー!!」
今度はリフが口を塞いで黙らせる。
側に立っているウェートレスは困った表情を浮かべている。
「注文は?」と聞きたいのだが、聞いても無視されそうだし、
下手したら自分まで巻き込まれそうなので黙っているしかなかった。
そんなウェートレスの心境に気付かず二人は口論を続ける。
「そんな大声で言わないで下さい!」
「大体大声で言われるのがやだったら、城の中でも居ろ!」
「城の中だと退屈なんです! それにおしとやかに・・・とかもう、うんざりです!」
立ち上がりドン! と机を叩く。
「なら我慢しろ!」
「嫌です! 大体、子供に対して大人気ないとか思わないんですか!?」
「うるせえ、俺はいつでも子供だ!」
まるで子供の口喧嘩のようだ。
数分間続いていたが、今は疲れたのかぜいぜいと喘いでいる。
チャンスと思ったのかウェートレスは聞いた。
「あの〜・・・ご注文は?」

「申し訳ありませんが、今は観光客が多いものでして・・・」
ホテルのロビーでエルは困っていた。
リフの買い物に付き合って遅くなり、ホテルで部屋を取ろうと思ったのだが・・・。
「一部屋しか無いんだな?」
「ええ、申し訳ありませんが・・・」
心の中で舌打ちした。
別々ならこっそり逃げてもばれないと思ったのだが、肝心の部屋が取れていない。
言いたい文句は山ほどあるが、受け付けの人には責任は無いので、俺は諦める事にした。
もちろん、後ろで修学旅行前の子供のようにはしゃいでいるリフには
正義(?)の鉄拳を浴びせたが・・・。

「ところで、なんで旅してるんですか?」
二人ともシャワーを浴び、それぞれベッドでくつろいでる時にリフは聞いてきた。
最初は黙っていたがしつこく聞いてくるので仕方なく答えた。
「自由を奪われるまでの抵抗・・・。抵抗になってるかは知らん」
ぶっきらぼうにそう答える。
部屋は幸い広く、ベッドも二つあり部屋に関しては『困る事』は全く無かった。
部屋にいる、リフという存在を抜かせば・・・。
「それよりガキはもう寝る時間だろ? とっとと寝ないと立派な男になれんぞ」
入れたてのコーヒーをすすりながら注意する。
「大丈夫、女ですから」
「ブフーーッ!」
あまりにも予想外過ぎる発言に平静を欠き、呑んでいたコーヒーを吹き出した。
オア国の国王の子供とは聞いていたが、他はあまり知らなかった。
だから、こいつにあった時、男だと思っていたのだ。
リフは「あーあ」と言いながらタオルを取ってくる。
「ちょっと待て! そんな事聞いてないぞ!!」
「だって聞かれてないから言ってませんよ?」
タオルで床をゴシゴシと拭きながらリフは平然と答える。
「だいたい何で男の格好してんだよ!」
「女の子の一人旅って狙われやすいじゃないですか? だからですよ」
俺の追撃をリフはかるく流す。
「あのなぁ〜」
後悔先に立たず・・・後悔とはあとにすることである。
その言葉の意味を深く俺は実感した。
「大丈夫ですよ。エルさんはそんな人じゃありません」
リフがニッコリ笑った。
なんでこんなに信頼できんだ・・・?
俺は心底不思議に思った。
「そこまで信頼されると逆に困るって・・・」
「困るって何でですか?」
子供らしい笑みを見て、俺は久しぶりに心の底から安らいだ気がした。
子供にはそういう不思議な力があるのだろうか?
「でも、いざと言う時は叫べよ。そしたら正気に戻るだろ」
「わかりました」
素直に頷くリフ。
「全く・・・どうしてこうなったんだか・・・」
「運が悪いんですね」
「ははは」
二人は笑った。それは男とか女とか大人とか子供とかじゃなく、
友達同士のように・・・陽気に笑った。

夜、静寂が辺りを包み込む時間
なぜか俺は起きてしまった
昼間からリフに付き合わされたから眠くないわけはないはずだが・・・。
ベッドから起き上がる。
窓の外を見ると、満月が夜空に輝いていた。
星や月を蟻に例えるなら月はまるで女王蜂のように存在感があり、威圧感があった。
「でかいな・・・」
今まで何度も見ているはずなのだが、今日は特に大きく感じられた。
「ん・・・」
はっとして振り返ると丁度寝返りを打って、リフがこちら側を向いた。
そのとき丁度、月光が窓から差し込んだ。
緑色の髪が月光に煌き、この世のものとは思えないほどきれいだった。
それに気付かなかったが、子供らしいリフの顔は幼さも残っているが、
結構整って、どこか可愛さが感じられた。
「って何を考えてるんだ・・・?」
そんな考えを振り払うため、ブンブンと首を振る。
鏡に映ったほのかに赤い顔を見て、ますます自分に呆れた。
そして、もう一度眠りについた。

「起きてください、行きますよ!」
「ん・・・あ?」
目を開けていきなり飛び込んできたのは横には白いTシャツ、黒いスカートの少女。
周りを見るとどこかのホテル。
一瞬わけがわからず混乱したが、昨日の出来事を思い出して納得した。
「ああ、朝か」
ムクリと起き上がりベッドから抜け出る。
リフはもうとっくに着替え終わっていた。
俺もすぐに着替えて顔を洗った。
頭がようやく起きてきた。その途端、嫌な事まで思い出してしまった。
「今日から一緒に旅できるんですね♪」
歌うようにリフは言った。
「全く持って最悪だな」
一気にテンションが下がりだす。
そんな俺に構わずにリフはドアへと移動していた。
「行きますよ〜」
「ああ」
荷物を持って俺はドアへと向かった。

「ところで、何故服装が変わってるんだ?」
あの街から出て、山道を歩いている時に俺は言った。
昨日まで短パンだったズボンがスカートになっているのだ。
「ボディーガードが護ってくれるので元の姿に戻しました」
「ボディーガードって・・・俺?」
「はいっ♪」
「・・・最悪だ」
最悪・・・この言葉は俺の気持ちを完璧に表していた。
残りの時間を自由に過ごしたいから旅をしてるのにそれを邪魔するおまけが
付いたらそう思うのも仕方ないかもしれない。
「言っとくけど、昨日のような奴等に襲われても俺は置いて行くからな」
目の前で襲われたら放っては置けないだろうが一応言っておいた。
リフはニッコリ笑って肯いた。
「大丈夫です。昨日は人が居たから逃げてましたけど
人が少ない所ではアレが使えます」
「アレ?」
「あ、説明してませんでした? アレというのは・・・」
リフが説明しようとした時、近くの茂(しげ)みが揺れた。
次の瞬間、草木を揺らしながら影が現れた。
正確には昨日の黒ずくめの連中だ。それぞれ武器を構えている。
俺が武器を構えようとした瞬間、リフが手で制した。
「任せてください」
「任せてください・・・って・・」
大丈夫か? と言おうと思ったが俺はやめた・・・いや、正確には言えなかった。
緑色の目は普段より深くなり、何か強大な力が感じられた。
雰囲気もいつもとは違い、ピリピリとした空気に包まれている。
心成しかリフの周りを光が包んでいるように見える。
「我、番人にして執行人、永劫の服従を誓う者・・・」
確かにリフの声なのだが、波長が全く違い、重く、場に響いた。
「鳥居を通過せし者達に地獄の捌きを与えよ!」
バチッ! 宙に火花が散り、一瞬、ピリピリとした空気が消える。
辺りが不思議な空気に包まれた・・・瞬間、
轟音と共に眩(まばゆ)い光が広がり、空気を振るわせた。
轟音は止む事は無く辺りに鳴り響き、光も縦横無尽に飛び回る。
あまりの眩しさに俺は目をつぶり、腕で目を覆ったが光は完全に遮断できなかった。
「ぐおおお・・・!!」
轟音の中かすかに聞こえる悲鳴、俺には何がなんだかわからなかった。
数秒程すると、音が完全に収まり、光も完全に消えていた。
「なんだ・・・こりゃあ・・・?」
目を開けた瞬間、俺は呟いた。
その様子は・・・まるで・・・
「雷でも落ちたか・・・?」
正にそれだった。
地面は大きく抉れ、近くの木々は焦げていて倒れているものもある。
おまけに辛うじて生きていたが、黒ずくめの連中は黒焦げになって倒れている。
「どうですか?」
その形跡を後ろにリフは尋ねた。
いきなりこれを見せ付けられて「どうですか?」と聞かれても答えれるはずが無い。
「いや、なんていうか・・・これは何だ?」
「これですか?」
少し後ろを振り返り
「呪術です」
「呪術!?」
俺は聞き返してしまった。
俺の知ってる限り呪術に付いて説明しよう。
呪術と言うのは要するに・・・呪いである。
藁人形に釘を打つような物ではないが、呪文と念によって物質的な効果をもたらす術で
昔は使える者も居たが、今では使える者が少なくなってしまったらしい。
――なのにこんな少女が使えるなんて!
「お前、その力・・・あ」
尋ねようと思ったんだが、肝心の本人がその場に倒れていた。
「お、おい、どうした?」
「体力の消耗が激しいみたいでこれを使うといつもこうなんで・・・す・・・」
リフの瞼は完全に閉じられた。
「どうするよ・・・おい・・・」
すーすーとリフの寝息だけが聞こえていた。

それから一週間後―――

「結構楽しいですね。二人旅も」
相変わらずニコニコとリフが言った。
結局・・・二人で旅をしていた。
邪魔だとかうるさいとか言いながらも放っておいてる俺と勝手に付いて来ているリフ。
これを旅というのかはわからないが、一緒に旅をしていた。
もちろん、途中に何度も奴等と遭遇したり、面倒な事に巻き込まれそうになったが、
力と呪いで何とか乗り切っていた。
そして、少しずつこいつの事もわかってきた。
リフはオア国の王女様なのだが城での暮らしに飽き、飛び出してきたそうな。
正確には一言言ったらしいが、返事を待たずに言ったようだ。
呪術に関しては城にあった古い文献を読んで覚えたと言っていた。
いつも狙われる黒い奴等はリウォーンという国の刺客のようだ。

リウォーンとはオアとミージュに隣接した場所に存在する国である。
オアとミージュは政治的に考えて平和を築こうとしてるのに対し、
リウォーンは宗教国家で、己の神のみを信じ従っているので、
当然意見が食い違う事が多い。噂では近年、争いが起きようとしているらしい。

リフの過去を聞いて、俺と同じだと思った。
オア国に隣接した国、ミージュ国の王子だが、城での生活に飽きていた。
それで、正式に国王の座に継ぐまで一人旅をしたいと無理を言って城から出たのだ。
多分、最後のわがままだとわかってくれたから行かせてくれたんだと思う。
―――それも、もうすぐ終わりか・・・。
一気に現実に引き戻された。
「普通一人旅だろ」
突っ込みながら俺は落ち込んでいた。
リフが付いてきた事もあるが、なによりこの旅に終わりが来る事が嫌だった。
「いっそのこと・・・逃げるか」
「へ?」
「いや、独り言だ」
立ち止まったリフを追い抜いて俺は先に進んだ。

終わりの時間は着実に近づいていた。
俺の旅の終わりと、あいつの終わりと・・・。

闇が空に手を伸ばせる時間、光が闇に包まれる時間・・・夜。
いつものように、俺はホテルで部屋を取ろうとしていた。
「部屋を取りたいんだが・・・」
リフと一緒のせいで疑わしげな眼差しを一身に浴びながら俺は言った。
「お二人様で?」
視線を俺からリフに移しながら尋ねる。
「いや、別々に頼む」
「かしこまりました」
そう言うと、従業員を二人連れて来て案内させた。
リフははがっしりとした体格の男性に、俺は優しそうな女性に連れられて
ロビーから出て行った。途中のエレベーターで別れ、それぞれの部屋に向かった。

俺は部屋の入り口までたどり着いた。
ドアにはただ903とかかれたプレートが下がっているだけで特に飾りもなかった。
「これが鍵でもし出かける際にはフロントに預けても構いません。それと・・・」
話をしている人には悪いが、俺は欠伸を噛み殺すのに必死だった。
「それでは、ごゆっくり」
パタンとドアを閉め、部屋から出て行った。
「あー! つかれた〜」
俺は勢いよくベッドに身を投げた。
柔らかなベッドは俺を眠りに誘う・・・。
今日は特に疲れていたせいもあってそのまま寝てしまった・・・。

「ん・・・あ?」
目を開けると白い天上、横を見るとプッシュ式の受話器・・・。
(部屋に来て、つい眠っちまったんだっけ・・・?)
ベッドから起き上がるとなぜか眠気は消えていた。
カーテンを開けてみると、まだ外は暗く、そこまで時間は経ってないようだ。
「ちょっと散歩でもするか」
頭を掻きながら出口へと向かった。

思えば、この時散歩しなければ良かったのかもしれない。
何度悔やんでも悔やみ切れない思いが未だに残っている。
仕方ないと諦めようとしても後悔の念が絶つ事はない。

「久しぶりだな、こうやって一人で歩くのは・・・」
俺は夜道を一人、歩いていた。
雨は降っていたが、小雨程度だったので傘は持って来ていない。
誰もいない歩道を一人歩いていくと、広い空間にたどり着いた。
ここは広場のようだ。周りには円を描くようにベンチが設置されており、
中央には時計と噴水があった。
「よいしょっ」
年寄り臭い声を出してベンチに座る。
辺りを見回すと誰もいなかった。時間が時間なだけに仕方がなかったが、
時間に一人取り残されたかのように・・・孤独だった。
ボーン ボーン、時計が鳴った。針は丁度、十二時を差していた。
(シンデレラは慌ててるんだろうな・・・)
まだ寝惚けているのかそんな考えが浮かぶ。
「そろそろ戻るか」
ベンチから立ち上がった次の瞬間、
ドン! 夜の沈黙を破る音が響いた。
音のした方向は・・・泊まったホテルの方向だった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
膝に手をつき、喘ぎながらホテルの入口にたどり着いた。
今にも破裂しそうな心臓を落ち着かせながら歩き出す。
その時、異常に気付いた。
普段は広いロビーが今は人で溢れている。
目の前を次々と人が通り過ぎていく。
深夜だというのに休む気配が全く伺えない。
「何かあったのか?」
通りかかった一人の人に聞いた。
「ええ、何者かが九階で銃を発砲。現在逃走中なんです」
そう言うと忙しいと呟いて去っていった。
俺はそんなことに気にしてる余裕はなかった。
九階? 確か・・・リフの部屋!
丁度下りて来たエレベーターに乗って9を押した。
(無事で・・・居てくれ!)
そう祈りながらエレベーターから降りた。
俺の祈りは・・・・・・裏切られた。
部屋のドアにはいくつもの弾痕、部屋の中には砕かれた窓ガラス、風になびくカーテン。
どうやら一足遅かったらしい。
「くそっ」
俺はリフを探しにホテルを出た。

ザァァ・・・さっきまで小雨だった雨が降り始めた。
急いでいたので傘は持って来ていない。
雨を体中に浴びながら、俺は走っていた。
後悔の念を抱きながら、ひたすら俺は走っていた。
何故、側にいなかった・・・?
走りながら俺の頭でこだまするのはその考え。
リフの身分から言えば狙われるのは当然だった・・・。
なのに・・・俺は・・・。
「くそっ」
自分が嫌になる。
思い切り殴りたいほど、自己嫌悪に陥っていた。
(無事に・・・居ますように)
滅多に祈らない神様に今日は真剣に祈った。
いつもは神なんかを当てにしたくない。
でも、今回は祈る事しか出来ない・・・。
俺は・・・走っていた。

・・・信じられなかった。
俺は自分の目を疑った。
目の前の現実を信じるより、自分の目を疑いたかった。
雨の中必死に走り回って、探し回って、ようやく見つけた。
それはふと立ち寄った廃棄工場だった。

血まみれで倒れているリフ、それを囲んで銃を向けている黒ずくめの連中。
「うおおおお!!」
俺は腹の底から叫び、突撃した。
武器は近くで拾っておいた鉄パイプ、と頼りないがそんな事を考えている余裕は無い。
弾が肩に当たろうが、太ももを貫こうが、俺は鉄パイプを必死に振るった。
「大丈夫か!?」
傷だらけの体を引きずりながらリフに駆け寄り、抱き上げる。
「大丈夫じゃ・・・ないかも・・・です」
俺の顔を見てホッとしたのかニコリと笑った。
馬鹿だった。どうしようもない馬鹿だ。呪術は体力の消耗が激しいと言っていた。
そんな状態のリフを・・・一人残して。
「エルさんこそ・・・ゴホッ!」
咳き込むと同時にリフの口から血が溢れた。
「ちくしょう! なんでだ!」
俺はこの現実が、運命が憎くて叫んだ。
憎い、憎い、全てを破壊したい。
「殺してやる、絶対に・・・」
体の中で燃えるような怒りが渦巻くのを俺は感じた。
「憎まないで下さい・・・」
俺の頬に手をあて、蚊の鳴くような声でリフは言う。
そして、いつもと同じ子供らしい笑みを浮かべた。
「復讐なんてろくな事ないですよ」
だんだんと手が下がっていく。
(助からない・・・)
頭の中ではわかっていた。わかっているつもりだった。
でも、必死にリフの手を握って声を掛ける。
「死ぬな! 死ぬなよ! せっかく友達を見つけた! だから・・・」
少女の手が俺の手から滑り落ちた。
その時、俺の中に鬼が生まれた。

ザアアア
あの時と同じ雨、復讐を誓った日と・・・同じ・・・。

「何か・・・言い残す事はないか?」
銀色の刃を男の首元に向け、俺は口を開いた。

あいつが死んでから俺は旅をやめた。
旅をする気も失せたし、何よりあいつを殺した奴等を許せなかった。
憎しみの炎を身に宿しながら国に戻り、いきさつを話した。
このままではオア国とミージュ国が滅ぼされてしまう。
俺がそう言うと、国王は黙ったまま頷き、オア国と協力して、
リウォーンを殲滅する事を決定した。
すぐさま殲滅部隊が結成され、リウォーンへと向かった。
俺が殲滅部隊に入ると言ったら国王に止められたが、
制止を振り切って俺は殲滅部隊に入った。
目的はもちろん・・・復讐。
リフが聞いても止めると思う、それが正しいとは思っていない、
でも、止められなかった。自分の中で燃え盛る憎しみの炎を俺は消せなかった。
だから・・・・・・。

「俺には友達が居たんだよ。そいつは結構な身分だってのにうるさくて、
ガキで、本当に迷惑な奴だった・・・」
誰に語るわけでもなく、俺は話し始めた。
「追い払っても追い払っても付いてきてな。面倒だったが・・・そいつとの旅は
楽しかった。生まれて初めて出来た心を許しあえる・・・友達だった!」
震える手を抑えるかのように剣を握る手に力を入れる。
「いずれ時間になれば旅は終わる。そいつともお別れかも知れない。
でも、また会うことも出来た。なのに・・・奪われた」
「・・・!」
その時、男はハッとした様子を浮かべた。
どうやら思い出したらしい、俺の言っているあいつの事を。
「祈る時間をくれてやる。その間に自分の愚かさを知れ」
ゆっくり、剣を振り上げた。
「た、頼む。許してくれ! やらないとダメだったんだ! 頼む、見逃してくれ!」
「言い残す事はそれだけだな」
フッと息を吐き、剣を思い切り振り上げた。
その瞬間、時が止まった気がした。
周りの景色が暗くなり、目の前に少女が現れた。
緑色の髪に緑色の眼、表情はいつもと違い少し暗い。
(どういうことだ・・・?)
俺の頭は状況を判断しようとしたが、逆に混乱してしまった。
それも仕方がない、死んだはずの人間がこの場に立っているのだから。
「リフ・・・だよな?」
ふるえる声で俺はそう尋ねた。
少女は少し困った顔をして肯く。
「ごめんな、助けれなくて。お前を救う事が出来なくて・・・」
頬を冷たい感覚が走った。
それが涙だと気付くまでには少し時間が掛かった。
少女は首を横に振ってニッコリと微笑んだ。
まるで、そんな事無いよと言ってくれてるかのように・・・。
俺は泣き顔を見られたくなくて、下を向いた。
「だからせめてお前の仇を取りたかった。お前が大切な友達だったから。
でも、結局・・・」
――それは自分のためだった。
リフのためじゃ無い事なんてわかっていた。
なのに・・・。
「俺は・・・どうしたらいい? 何をしたらいいんだ!?」
リフは黙って微笑んだ。
何の答えもくれてない、けどわかった気がした。
何をすればいいか、の答えが・・・。
俺の顔を見て、納得した表情を浮かべると、
光が消えるかのように徐々に姿を消していった・・・。
途端に現実に引き戻された。
暗かった景色が元の明るさに戻り、振り下ろした腕が高度を下げている。
「くっ!」
腕に力をいれ、寸前で剣を止める事が出来た。
意識は自然とはっきりしていた。頭も妙に冷静だ。
まるで、俺じゃないかのように・・・。
カシン、金属と金属がぶつかる音が響いた。
「次に会ったら命の保障はしない」
それだけ言うと踵を返し、去って行った。
帰り際に一言呟いた。
「約束は・・・守ったぞ」

「・・・ってので俺の話は終了だ」
話し終えると青年は椅子にもたれかかった。
久しぶりに長く話したから疲れたのかもしれない。
少しそうしていたが、やがて立ち上がり窓を開けた。
ヒュゥと冷たい風が部屋を走る。
窓枠に腰を掛け、月光を背中に浴びながら青年は言った。
「まあ、俺が今言える事は一つ・・・」
ヒュゥ、再び冷たい風が吹く。
青年は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「復讐はろくな事が無いって事かな」

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++あとがき++ とあるサイトで感想を貰った小説です。 文章力不足、描写不足、設定の矛盾など様々な注意点を指摘されました。 よくよく読んでみると載せちゃ駄目なほど下手ですが、 未来の自分のために一応載せます。 っつーか主人公自分勝手だなぁ〜。